はじめに
基幹システムを刷新する際、新システムへの切り替え方法として「並行稼働」を選ぶケースは多くあります。新旧両方のシステムを同時に動かしながら、新システムの安定性を確認したうえで旧システムを止める、という進め方です。安全な移行方法である一方、「いつまで並行稼働を続けるべきか」という判断に悩む発注側担当者は少なくありません。
並行稼働が長引いてしまう理由
並行稼働は本来、新システムの信頼性を確認するための「移行期間」であるはずですが、現場では次のような理由で終了のタイミングを逃し、ずるずると長引いてしまうことがあります。
- 新システムで小さな不具合が見つかるたびに「もう少し様子を見よう」と判断が先送りされる
- 並行稼働自体が「安全策」として定着してしまい、終了することへの心理的なハードルが上がる
- 並行稼働を終了する基準が、そもそも事前に決められていない
特に3つ目が根本的な原因です。終了基準がないまま並行稼働を始めると、「十分に安定した」と誰も自信を持って判断できず、意思決定が先送りされ続けます。
並行稼働を続けることのコスト
並行稼働は「安全」に見えますが、無料ではありません。二重運用による業務負荷の増大(同じデータを2つのシステムに入力する、2つのシステムの結果を突き合わせる、といった作業)、旧システムの保守費用の継続発生、そして何より「本当に新システムに移行しきれていない」という状態が続くことによる、プロジェクトの心理的な未完了感——これらはすべて、並行稼働が長引くことで積み重なっていくコストです。
並行稼働の終了基準を事前に決めておく
並行稼働を適切な期間で終えるためには、開始前に終了基準を具体的に決めておくことが不可欠です。
- 新システムでの処理結果が、旧システムと一定期間(例:3ヶ月分の決算処理サイクル)一致し続けていること
- 新システムに起因する重大な不具合(業務に支障が出るレベル)が、一定期間発生していないこと
- 業務部門の主要な利用者から、新システムでの運用に問題がないという合意が得られていること
これらの基準を、カットオーバー判定基準を事前に決めるで触れた考え方と同様に、プロジェクト関係者全員が合意できる形で文書化しておくことが重要です。「もう後戻りできない」という空気に流されて並行稼働を延長し続けるのではなく、事前に決めた基準に基づいて淡々と判断できる状態を作っておく必要があります。
実際に使っているカットオーバー判定基準書は、noteで配布しています。並行稼働の終了判断にもそのまま応用できる内容になっています。
並行稼働中にやるべきこと
並行稼働の期間は、単に「様子を見る」だけの期間にしてはいけません。この期間を使って、新システムの操作に不慣れな利用者へのトレーニング、マニュアルの整備、旧システムでしか対応できていなかった例外業務の洗い出しと対応方針の決定を進めておく必要があります。並行稼働の終了と同時にこれらが完了している状態を目指すことで、終了後の混乱を最小限に抑えられます。
まとめ
並行稼働が長引く最大の原因は、終了基準が事前に決められていないことです。開始前に具体的な終了基準を文書化し、関係者の合意を得ておくことで、「もう少し様子を見よう」という先送りを防げます。並行稼働の期間は、様子見の期間ではなく、本稼働に向けた準備を完了させる期間として積極的に活用することが重要です。
執筆者プロフィール:SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事(通算9年)。要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応し、基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。


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