はじめに
経営層・現場・ベンダーの板挟みを解消する3つのステークホルダーマネジメント術では、板挟みを解消する実践的な方法について触れましたが、そもそも「誰に、どの程度力を入れてコミュニケーションを取るべきか」を体系的に分析できていないプロジェクトは少なくありません。ステークホルダー分析の具体的なやり方を整理します。
なぜステークホルダー分析が必要なのか
プロジェクトには、経営層、業務部門の現場担当者、情報システム部門、ベンダー、場合によっては社外の関係機関など、多数の関係者が存在します。すべての関係者に均等に力を入れてコミュニケーションを取ろうとすると、プロジェクトマネージャーの時間はいくらあっても足りません。
ステークホルダー分析は、限られたコミュニケーションの時間・労力を、どの関係者にどれだけ配分すべきかを判断するための土台になります。
パワー・関心度マトリクスという考え方
ステークホルダー分析の代表的な手法が、「パワー(影響力)」と「関心度」という2つの軸で関係者をマッピングする、パワー・関心度マトリクスです。
① パワー(影響力)が高い・関心度も高い:重点的に管理する
プロジェクトへの影響力が大きく、かつ強い関心を持っている層です。経営層や主要な業務部門の責任者がここに該当することが多く、定期的に密にコミュニケーションを取り、意思決定への関与を促す必要があります。
② パワーが高い・関心度は低い:満足させておく
影響力は大きいものの、日常的な関心は薄い層です。経営層の一部がここに該当することがあります。細かい進捗まで報告する必要はありませんが、重要な意思決定の場面では必ず関与してもらえるよう、要所要所で情報を届けておく必要があります。
③ パワーは低い・関心度は高い:十分な情報を提供する
影響力は限定的ですが、プロジェクトに強い関心を持っている層です。現場の実務担当者がここに該当することが多く、直接的な意思決定権はなくても、現場の納得感を得るうえで重要な存在です。丁寧な情報提供とフィードバックの機会を設けることが重要です。
④ パワーも関心度も低い:最小限の労力でモニタリングする
影響力・関心度ともに限定的な層です。過度に労力をかける必要はありませんが、状況が変化してパワーや関心度が高まることもあるため、定期的な状況確認は怠らないようにします。
分析結果をどう活かすか
パワー・関心度マトリクスでマッピングした結果は、コミュニケーション計画に直接反映させます。誰に、どの頻度で、どんな粒度の情報を、どの手段(定例会議、個別報告、メールなど)で届けるのかを、このマッピングに基づいて設計します。
特に注意すべきは、②の「パワーは高いが関心度が低い」層です。普段の関与が薄いため軽視されがちですが、いざ重要な意思決定の場面になると強い影響力を発揮することがあります。この層への要所要所でのコミュニケーションを怠ると、終盤になって「聞いていなかった」という形で、重大な方針転換を迫られるリスクがあります。
分析は一度やって終わりではない
ステークホルダーの立場や関心度は、プロジェクトの進行とともに変化します。プロジェクト開始時に一度分析して終わりにするのではなく、主要なフェーズの節目ごとに見直すことをおすすめします。特に組織変更や人事異動があったタイミングでは、キーパーソンが入れ替わることも多く、分析のアップデートが欠かせません。
ステークホルダー分析で「誰に・どれだけ」コミュニケーションを取るべきかが整理できたら、次は「誰が決めるのか」が決まっていないプロジェクトは必ず迷走する|RACIという考え方で触れたRACIの考え方を使って、「誰が実行し、誰が最終決定するか」まで役割として明文化しておくと、分析が実際の運用に落とし込みやすくなります。
実際に使っているステークホルダー分析シート(パワー・関心度マトリクス)は、noteで配布しています。パワー・関心度を入力するだけで象限とマトリクス図が自動生成される構成にしています。
まとめ
ステークホルダー分析は、限られたコミュニケーションの労力を適切に配分するための土台になります。パワー・関心度マトリクスで関係者をマッピングし、特に「パワーは高いが関心度が低い」層への要所でのコミュニケーションを怠らないことが、終盤での想定外の方針転換を防ぐポイントです。
執筆者プロフィール:SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事(通算9年)。要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応し、基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。


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