はじめに
AI活用は、業務の属人化を解消する手段として語られることが多くあります。しかし実際には、AI活用の広がり方によっては、従来とは異なる新しい形の属人化を生み出してしまうことがあります。この逆説的な現象と、その対策を整理します。
AIが解消する属人化、AIが生み出す属人化
AI活用が解消する属人化は、主に「特定のスキルを持つ人にしかできなかった作業」が、AIの支援によって誰でも一定レベルでこなせるようになる、という形のものです。例えば、文章作成が苦手な人でも、AIの支援によって一定水準の文章を作れるようになります。
一方で、AI活用が新たに生み出す属人化もあります。
- プロンプトの作り方・指示の出し方のノウハウが属人化する:同じAIツールを使っていても、効果的な指示の出し方を知っている人と知らない人とで、得られる成果物の質に大きな差が出ます
- AIの出力を検証・修正する力が属人化する:生成AIの回答をそのまま信じない|精度検証の実務的な進め方で触れたように、AIの出力を適切に検証できる人とできない人がいる場合、検証できる人に業務が集中しやすくなります
- AIで作られたツール・成果物の中身を理解している人が限定される:ノーコード・ローコードAIツールと従来のシステム開発の違いで触れたように、AIを使って個人が作った業務ツールは、作った本人以外が保守できない状態に陥りやすくなります
なぜこの「新しい属人化」が見過ごされやすいのか
従来の属人化は、「特定の業務が特定の人にしかできない」という形でわかりやすく認識されていました。一方、AI活用による新しい属人化は、一見「誰でもAIを使えば同じようにできる」ように見えるため、属人化が進んでいることに気づきにくいという特徴があります。
実際には、同じAIツールを使っていても、効果的な活用ができている人とできていない人の差は大きく、この差がそのまま新しい形の属人化になっています。
対策:ノウハウを「個人のスキル」で終わらせない
① 効果的なプロンプト・活用方法を組織で共有する
個人が見つけた効果的な指示の出し方や活用パターンを、個人のノウハウにとどめず、組織内で共有する仕組みを作ります。社内でAI活用を広げる「推進体制」の作り方で触れたナレッジ集約の役割が、ここでも重要になります。
② AIで作ったツール・成果物にも、通常の業務と同じ記録を残す
AIを使って作った業務ツールであっても、「誰が」「何のために」「どう作ったか」を記録として残す習慣をつけます。作った本人が異動・退職しても、後任者が経緯を理解できる状態にしておくことが重要です。
③ 検証スキルを特定の人に依存させない
AIの出力を検証できる人材を増やすための教育機会を設けます。検証できる人が一人しかいない状態では、その人がボトルネックになり、組織全体のAI活用のスピードを制約してしまいます。
まとめ
AI活用は従来の属人化を解消する一方で、プロンプトのノウハウ、出力の検証力、AIで作ったツールの保守といった、新しい形の属人化を生み出すことがあります。この変化は見過ごされやすいため、ノウハウを組織で共有する仕組み、成果物の記録を残す習慣、検証スキルを特定の人に依存させない教育体制を意識的に整えることが重要です。
執筆者プロフィール:SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事(通算9年)。要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応し、基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。

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