プロジェクトマネジメントは「べき論」だけでは機能しない|理論と現場判断の使い分け

プロジェクトマネジメントは「べき論」だけでは機能しない|理論と現場判断の使い分け

はじめに

発注側が最低限知っておくべきプロジェクト管理の「型」では、発注側が持つべき管理の型について解説しました。ここで一つ、誤解されやすい点があります。「型(べき論)を知っていれば、それをそのまま当てはめれば管理はうまくいく」という誤解です。

SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事してきた経験から、プロジェクトマネジメントにおける「べき論」と「現場判断」の関係について整理します。

「べき論」を知らないと、そもそも議論の土俵に立てない

まず前提として、プロジェクトマネジメントの「べき論」——進捗管理はこう行うべき、リスクはこう評価すべき、体制はこう組むべき、といった標準的な型——を知っていることは非常に重要です。

べき論を知らないまま現場に入ると、「何となく」「これまでこうしてきたから」という感覚だけで進めることになり、そもそも何が足りていないのかにすら気づけません。進捗報告のフォーマットが不十分なのか、リスク管理が形骸化しているのか、体制の責任分担が曖昧なのか——こうした問題を発見するためには、まず「本来どうあるべきか」という基準を知っている必要があります。べき論は、現場の状況を評価するための「物差し」そのものです。

べき論をそのまま当てはめると、現場で機能しないことがある

一方で、べき論を学んだだけの人が陥りやすい失敗があります。それは、状況を無視して教科書通りの手法をそのまま当てはめてしまうことです。

小規模なプロジェクトに、大規模プロジェクト向けの重厚な管理プロセスをそのまま持ち込むと、管理のための管理に工数を取られ、現場が疲弊します。逆に、複雑で関係者の多いプロジェクトを、小規模プロジェクト向けの簡易な管理で進めようとすると、情報が行き渡らず混乱します。べき論はあくまで「一般的にはこうすべき」という原則であり、目の前のプロジェクトの規模・関係者の数・リスクの性質に応じて、適用の仕方を調整する必要があります。

教科書通りの手法をそのまま適用して失敗したプロジェクトと、感覚と経験だけで突き進んで失敗したプロジェクト——発注側支援の現場では、実はどちらも同じくらいの頻度で見てきました。

「べき論」と「現場判断」は対立項ではない

ここで重要なのは、「べき論」と「現場の経験則」を対立するものとして捉えないことです。両者は役割が異なります。

べき論は、選択肢の引き出しと、それぞれの原則・根拠を与えてくれます。現場判断は、その引き出しの中から今のプロジェクトに合う手法を選び、適用の強度を調整する役割を担います。べき論を知らなければ、そもそも引き出しの中身が空っぽで、選びようがありません。経験だけに頼ると、知らず知らずのうちに自分の過去の成功体験だけに偏った手法を選んでしまい、状況が変わったときに対応できなくなります。

理論を理解した上で、状況に応じて適した管理手法を選び、適用する——これが、べき論と現場判断を両方使いこなすということです。

発注側にとっての実務的な意味

この話は、ベンダーに管理を任せきりの発注側担当者にとっても無関係ではありません。べき論を知らない発注側は、ベンダーから提示される管理プロセスが自社のプロジェクトに対して過剰なのか不足しているのかを判断できず、ベンダーの提案をそのまま受け入れるしかなくなります。

逆にべき論を知っていれば、「この規模のプロジェクトにしては報告の粒度が粗すぎないか」「このリスク管理の進め方は、うちのプロジェクトには重すぎるのではないか」といった判断ができるようになります。発注側がべき論を理解しておくことは、ベンダー任せの管理から抜け出し、対等な立場で会話をするための前提条件です。

まとめ

プロジェクトマネジメントは、べき論だけでも、経験だけでも機能しません。べき論は状況を評価する物差しと選択肢の引き出しを与え、現場判断はその中から今のプロジェクトに合う手法を選び、適用の強度を調整します。発注側としても、べき論を押さえておくことで、ベンダー任せにせず主体的にプロジェクト管理の質を判断できるようになります。


執筆者プロフィール:SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事(通算9年)。要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応し、基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。

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