はじめに
これまでの記事では、ベンダー側の問題や、発注側が気をつけるべき確認事項について多く触れてきました。しかし、プロジェクトが破綻する原因は、必ずしもベンダー側だけにあるわけではありません。発注側の「無理な要求」が、プロジェクトそのものを壊してしまうケースも、実務の現場では決して珍しくありません。
「無理な要求」とはどういうものか
発注側による無理な要求には、いくつかの典型的なパターンがあります。
- **後出しの要求変更**:要件定義や設計が完了した後になって、「やっぱりこの機能も欲しい」と次々に要求を追加する
- **根拠のない納期短縮**:技術的な見積もりを無視し、「来月までに何とかしてほしい」と一方的に納期を縮める
- **スコープ外の無償対応の要求**:契約範囲外の作業を、「ついでにやってもらえますよね」という空気で押し付ける
- **現場を無視した意思決定**:現場の実務担当者の意見を聞かずに、経営層の思いつきで方針を変更する
これらはいずれも、発注側が「お金を払っている側だから何でも言える」という誤った前提に立ってしまったときに起きやすい問題です。
QCDの原則は、発注側にも当てはまる
安すぎる見積もりが危険な理由で触れたQCD(Quality・Cost・Delivery)のバランスという原則は、ベンダー側だけの話ではなく、発注側の要求にもそのまま当てはまります。スコープを増やしながら納期とコストを変えない、というのは、QCDの三角形を無視した要求であり、どこかに必ずしわ寄せが生じます。
このしわ寄せは、多くの場合、ベンダー側の現場担当者の無理な稼働や、品質の見えない部分(テストの網羅性など)で吸収されます。短期的には何とか形になったとしても、その無理は後になって不具合やベンダー側の離脱という形で表面化します。
丸投げ構造と無理な要求は、根っこが同じ
発注側が「丸投げ」になってしまう組織構造の問題で触れた丸投げの問題と、無理な要求の問題は、根っこの部分で同じ原因を持っています。どちらも、発注側が自分たちの要求・制約を事前にきちちんと整理せず、その場その場の都合でベンダーに負担を押し付けてしまうという構造です。
要求が固まっていないから後出しの変更が増える。社内都合の変化を、ベンダーへの一方的な要求変更で乗り切ろうとする。この悪循環を断ち切るには、発注側自身が、要求をコントロールする規律を持つ必要があります。
無理な要求を防ぐために、発注側ができること
- 要求変更が発生した場合は、スコープ・納期・コストのいずれかを調整する必要があることを、社内で共通認識として持つ
- 「無料でお願いできますか」という依頼をする前に、それが契約範囲内の作業かどうかを確認する習慣を持つ
- 経営層の思いつきによる方針変更は、現場の実務担当者・ベンダーへの影響を確認した上で、必要な調整期間を設けてから実行する
これらは特別な仕組みというよりも、発注側の担当者・組織が持つべき基本的な規律です。ベンダーと長期的なパートナーシップを築くために発注側ができることでも触れたとおり、ベンダーを対等なパートナーとして扱う姿勢が、無理な要求を防ぐ土台になります。
まとめ
プロジェクトが破綻する原因は、ベンダー側だけでなく、発注側の無理な要求にもあります。後出しの要求変更や根拠のない納期短縮は、QCDのバランスを崩し、どこかに必ずしわ寄せを生みます。発注側自身が要求をコントロールする規律を持つことが、健全なプロジェクト運営とベンダーとの良好な関係を保つための重要な条件です。
執筆者プロフィール:SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事(通算9年)。要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応し、基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。


コメント