はじめに
AI活用を検討する企業から「うちの業務でAIは使えますか」と相談を受けたとき、最初に確認することがあります。それは、対象となる業務のデータが、そもそもデジタルデータとして存在しているかどうかです。
どれだけ高性能なAIサービスであっても、読み込ませるデータがなければ何もできません。AI活用を検討する前段階として、電子化・デジタル化が必須である、という話をします。
紙・口頭のやり取りは、AIにとって「存在しないデータ」
紙の帳票、手書きのメモ、口頭での引き継ぎ——こうした情報は、人間同士であれば何とか回っていても、AIにとっては「存在しないデータ」と同じです。AIに業務を支援してもらうには、その業務にまつわる情報が、何らかの形でデジタルデータとして残っている必要があります。
マルチモーダルAIの登場により、紙の書類を写真に撮って読み取らせる、といったことは以前よりやりやすくなりました。しかし、これはあくまで「紙の情報をデジタル化する手段」が増えたという話であり、紙のまま放置された情報をAIが自動的に理解してくれるわけではありません。
データが整っていない状態でAI導入を進めると起きること
データが整っていない状態で無理にAI活用を進めようとすると、次のような事態が起こりがちです。
- PoC(技術検証)の段階になって、初めて「使えるデータが思ったより少ない」ことに気づく
- データをかき集めるだけで、検証期間の大半を使ってしまう
- 手元に集まったデータの形式がバラバラで、整形作業に想定以上の工数がかかる
AI導入プロジェクトにおいて、データ準備は最も時間がかかり、かつ軽視されがちな工程です。「データはあるはず」という思い込みのまま計画を立てると、スケジュールが大きく崩れる原因になります。
電子化・デジタル化から始めるという選択
対象業務のデータが十分にデジタル化されていない場合、焦ってAI活用に進むのではなく、まずは業務プロセスの電子化・デジタル化から着手することをおすすめします。
- 紙の帳票を、入力フォームやシステムへの直接入力に置き換える
- 口頭での引き継ぎ事項を、チャットツールや共有ドキュメントに記録する習慣をつける
- 複数の担当者がバラバラの形式で管理している情報を、統一されたフォーマット・保管場所に揃える
地道な取り組みに見えるかもしれませんが、これらはAI活用の土台であると同時に、業務の属人化解消やナレッジ共有にもつながる、それ自体に価値のある取り組みです。
電子化と並行してできる準備
電子化・デジタル化には一定の時間がかかります。そのため、電子化を進めながら並行して、どの業務にAIを活用したいか、目的や課題の整理を進めておくことをおすすめします。データが整うタイミングで、すぐにAI活用の検討に着手できるようにしておくと、プロジェクト全体のスピードが落ちません。
まとめ
AI活用には、その前提として業務のデータが電子化・デジタル化されている必要があります。紙や口頭でのやり取りが多く残っている場合は、焦ってAI活用に進むのではなく、まず電子化・デジタル化から着手することが、結果的にAI導入をスムーズに進める近道になります。
執筆者プロフィール:SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事(通算9年)。要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応し、基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。


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