はじめに
基幹システム刷新プロジェクトにおいて、本番稼働日(カットオーバー)はプロジェクトの大きな節目として扱われます。しかし、本番稼働をゴールとして捉えてしまうと、稼働直後にプロジェクトチームの意識が一気に緩み、本当に重要な「定着」のフェーズが疎かになってしまうことがあります。基幹刷新の本当のゴールがどこにあるのかを整理します。
「稼働した」と「使われている」は別物
本番稼働した時点では、新システムは「存在している」だけで、まだ「使いこなされている」わけではありません。稼働直後は、多くの利用者が慣れない操作に戸惑い、旧システムの頃のやり方に戻ろうとする力学が働きます。紙やExcelでの代替運用が黙認されたまま定着してしまい、気づけば新システムが一部機能しか使われていない、という状態に陥ることも珍しくありません。
稼働はゴールではなく、本当のスタートラインです。ここから利用者が新システムを自分たちの業務の一部として使いこなせるようになるまでが、プロジェクトが本来達成すべき成果です。
なぜ「稼働」がゴールとして扱われてしまうのか
この誤解が生まれる背景には、プロジェクト計画そのものが「本番稼働日」をマイルストーンの終点として設計されていることが多いという事情があります。予算・体制・スケジュールが、本番稼働日をもって区切られていると、プロジェクトチームの意識も自然とそこで一区切りついてしまいます。基幹刷新プロジェクトにおける経営層の関わり方でも触れているように、経営層への報告も「無事に稼働しました」という時点で満足されがちで、その後の定着状況まで継続的にモニタリングする体制が用意されていないケースが多いのです。
定着を測るための指標を持つ
定着を実現するためには、「稼働している」という状態を定性的に語るのではなく、定量的な指標でモニタリングする必要があります。
- 新システムの利用率(本来の業務量に対して、どの程度が新システム経由で処理されているか)
- 旧システムやExcel・紙での代替運用がどの程度残っているか
- 現場からの問い合わせ・不満の件数が、稼働後どのように推移しているか
これらの指標を、稼働直後だけでなく、数ヶ月単位で継続的に追跡することが重要です。基幹刷新で「現場の抵抗」が起きる本当の理由で触れた抵抗感は、稼働直後に消えるわけではなく、むしろ稼働後の運用の中でじわじわと表面化することも多いためです。
定着までを見据えた体制・予算の確保
定着を実現するためには、本番稼働後も一定期間、プロジェクトチームの体制を維持し、現場からの問い合わせ対応や追加トレーニングに対応できる状態を確保しておく必要があります。稼働日をもってプロジェクトチームを即座に解散してしまうと、現場が困ったときに頼れる相手がいなくなり、定着が進まないまま放置されるリスクが高まります。予算計画の段階から、稼働後の定着支援期間を見込んでおくことをおすすめします。
まとめ
基幹刷新プロジェクトの本当のゴールは、本番稼働ではなく、新システムが現場に定着し、実際の業務の一部として使いこなされることです。稼働をゴールとして扱ってしまうと、稼働直後の定着支援が疎かになり、結果として新システムが十分に活用されないまま終わってしまうリスクがあります。定着を測る指標を持ち、稼働後も一定期間体制を維持することが重要です。
執筆者プロフィール:SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事(通算9年)。要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応し、基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。


コメント