はじめに
ITエンジニアやコンサルタントとしてキャリアを積む中で、「発注側(事業会社側)の経験」を自分のキャリアの軸に据えることには、あまり語られていない価値があります。なぜ発注側はITプロジェクトで損をするのかで触れた情報の非対称性の構造を踏まえると、その希少性がより明確になります。
「作る側」の経験者は多いが、「発注する側」の経験者は少ない
IT業界には、SIerやベンダーとして「システムを作る側」の経験を積んだ人は数多くいます。一方で、事業会社の立場で「ITを発注する側」の経験を積んだ人は相対的に少数です。ベンダー側の経験者がキャリアの途中で発注側に移ることはあっても、その逆(発注側からベンダー側)は選択肢としてあまり意識されません。
この非対称性こそが、発注側の経験を持つことの市場価値につながります。「作る側の理屈」と「発注する側の理屈」の両方を理解している人材は、片方しか知らない人材と比べて、圧倒的に希少です。実際、採用市場でも「発注側経験者」という枠組みで明確に求人が出ることは少ないものの、面接の場で発注側経験を具体的に語れる候補者は、採用担当者に強い印象を残しやすい傾向があります。
発注側の経験が活きる3つの場面
発注側の経験は、次のような場面で具体的な強みとして発揮されます。
- **ベンダー側に転じた場合**:発注側がどんな不安・懸念を持つかを肌感覚で理解しているため、提案や説明の説得力が高まる
- **コンサルとして支援する場合**:発注側クライアントの立場に立った、実務に即したアドバイスができる
- **社内でのキャリアアップ**:ベンダー任せにしない、主体的なIT投資判断ができる人材として評価されやすい
これらに共通するのは、「発注側が何を知らず、何に困っているか」を、推測ではなく実体験として語れることです。この違いは、特にクライアントや上司との信頼関係を築く初期段階で大きな差になります。
発注側の経験は「地味」に見えて積み上がる
発注側の仕事は、華やかな技術的成果が前面に出にくく、「地味」に見られがちです。しかし、ベンダーマネジメント、要件定義のファシリテーション、投資対効果の説明責任——こうした経験は、プロジェクトマネジメントの本質的な能力として、業界を問わず評価される普遍的なスキルセットです。
目先の技術トレンドに左右されにくい、息の長いキャリアの軸になりうるのが、発注側の経験の特徴です。技術トレンドは数年単位で移り変わりますが、「複数の利害関係者をまとめてプロジェクトを前に進める力」は、どんな時代のどんなプロジェクトでも必要とされ続けます。
まとめ
発注側の経験は、IT業界の中では相対的に希少であり、「作る側」と「発注する側」の両方の理屈を理解していることが大きな強みになります。地味に見える仕事の積み重ねですが、業界を問わず評価される普遍的なスキルとして、キャリアの軸に据える価値のある経験です。今発注側で働いている方は、その経験の希少性にもっと自信を持ってよいと思います。
執筆者プロフィール:SIer(元請け)とITコンサルファーム(発注側支援)、両方の立場でプロジェクトに従事(通算9年)。要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応し、基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。


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