なぜ発注側はITプロジェクトで損をするのか?SIer→コンサルで見えた「情報の非対称性」という構造

なぜ発注側はITプロジェクトで損をするのか?情報の非対称性という構造

はじめに

このブログでは、ベンダー選定・RFP・見積もり・交渉・プロジェクト管理など、発注側の視点に立った実務ノウハウを発信してきました。改めて振り返ると、これらすべての記事の根っこには、ある一つの共通した構造があります。

それは、発注側とベンダー側の間にある「情報の非対称性」です。SIerで元請けとして4年半、ITコンサルファームで発注側支援として4年半——ちょうど非対称性の「作る側」と「埋める側」の両方を経験してきたので、その構造について整理してみます。

SIer時代に見ていた景色(元請けという立場から)

SIer時代、私は元請け事業者という立場でプロジェクトに携わっていました。元請けというのは、顧客と直接契約し、実際の開発作業の一部(あるいは大部分)を下請け・孫請けに発注しながらプロジェクト全体を管理する立場です。

この立場にいると、発注側には見えない景色がいくつもあります。

  • **見積もりの積み上げ構造**:顧客に提示する見積金額は、下請けへの発注コストに、元請けとしてのマネジメントフィーやリスクバッファが積み重なってできています。この内訳は、通常は顧客に開示されません
  • **体制図と実態のギャップ**:顧客に提示する体制図はきれいに整理されていますが、実際の作業は複数の下請け企業にまたがっており、誰が何をどこまで理解して作業しているかは、現場レベルでは見えにくくなっていることがあります
  • **提案・見積もりの「見せ方」**:顧客に響く見え方を意識して提案書や見積もりを作るのは、営業活動として当然の行為です。しかしそれは裏を返せば、顧客側が「見せられた情報だけ」で判断せざるを得ない構造があるということでもあります

SIerの見積もりは高い?妥当性をチェックする5つのポイントで触れた「人月単価に換算すると相場からかけ離れている」という事態も、こうした多重構造の中でコストが積み上がっていった結果として起きることがあります。発注側がこれを見抜きにくいのは、発注側の能力の問題ではなく、構造的に情報が見えないようになっているからです。

コンサル時代に見えてきたこと

その後、ITコンサルファームに転じ、今度は発注側を支援する立場でプロジェクトに関わるようになりました。すると、SIer時代には気づかなかったことが見えてきます。

発注側の担当者は、決して知識や能力が不足しているわけではありません。むしろ優秀な方が多い一方で、「ベンダー側がどういう論理・構造で動いているか」を知る機会そのものがないために、結果として不利な判断をしてしまっているケースを何度も目にしました。悪意のある発注も、無能な発注担当者も、実際にはそれほど多くありません。ただ「知らない」だけで損をしている、という構図がほとんどです。

情報の非対称性という構造の正体

整理すると、発注側がITプロジェクトで損をしやすい背景には、次のような情報の非対称性があります。

  • ベンダー業界内の商習慣・専門用語が、発注側には共有されていない
  • 見積もりの内訳・相場観が、発注側からは見えない
  • 多重下請け構造の実態が、契約上は見えないようになっている
  • 交渉やRFPの「お作法」そのものが、ベンダー側にしか蓄積されていない

これらはどれも、発注側が頑張って勉強すれば埋められるというより、そもそも情報にアクセスする機会自体が少ないという構造の問題です。

このブログで発信している理由

このブログで発注側向けの実務ノウハウを発信しているのは、まさにこの情報の非対称性を少しでも埋めたいと思っているからです。ベンダー側で見てきた景色と、発注側支援で見てきた景色、その両方を知っているからこそ伝えられることがあると考えています。

より実践的なテンプレート(RFPのひな形、見積もりチェックシートなど)や、個別の案件に即した相談については、noteの方でまとめて提供する予定です。


執筆者プロフィール:SIerで4年半(元請け事業者の立場)、ITコンサルファームで4年半(発注側支援の立場)、要件定義からベンダーマネジメントまで一貫して対応。基幹システム刷新・DX推進プロジェクトに多数従事。

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